ベンジャミン・ブラウンさん(オーストラリア)
インタビュー&構成:徳橋功
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Benjamin Brown
元 川崎市国際交流員
人間の根本の欲求や「平和に暮らしたい」という思いを尊重し合う。それが「多文化共生社会」だと思います。
皆さんは”多文化共生”という言葉をご存知でしょうか?My Eyes Tokyoのディープな読者なら、一度は耳にしたことがあるかもしれません。2012年にインタビューした、在日コリアンの孔連順さんという方が、今まさに神奈川県でこの問題に取り組まれています。
今回ご紹介するのは、平たく言えば孔さんの同僚にあたる人。孔さんが過去に企画委員長として携わられた、多文化共生の実現に向けて神奈川県で年に一度開催されるビッグイベント「あーすフェスタかながわ」にて、「外国籍県民フォーラム」という約2時間の外国人同士のパネルディスカッションの要となった熱血漢、ベンジャミン・ブラウンさんです。
私たちがベンジャミンさんに初めて出会ったのは、昨年の「あーすフェスタかながわ」での会議でした。オーストラリア出身と知り、いつか彼の目から見た日本の多文化社会実現への取り組みについてお聞きしたいと思っていました。
その翌年の2013年、My Eyes Tokyo主宰の徳橋功もプレゼンターとして参加した今年の「外国籍県民フォーラム」では、彼自身がプレゼンの大トリを務めました。そして、まだ日本では定義が曖昧な”多文化共生”という言葉を、多文化・多人種国家のオーストラリアが育んだ柔軟な思考で、彼独自の定義付けをしました。これまで何百人もの外国人と接し、短期間ではありましたがアメリカ・カリフォルニア州という多文化社会であらゆる文化に接してきた徳橋は、その論理を裏付ける彼の視点を感じたいという衝動にかられ、改めてベンジャミンさんにインタビューを申し込みました。
*インタビュー@川崎市川崎区
外国人はいつまでもお客様
僕は、オーストラリア人の父と日本人の母との間に生まれました。そして大学を出るまでオーストラリアで育ちました。大学時代に4ヶ月間名古屋の大学に留学した以外は、日本に長期的に住んだことはありませんでしたが、それ以前も毎年日本に行って母方の家族とは会っていました。
日本にルーツがあるし、ましてこのような環境で育ったから、お箸は使えて当然なんですが、ここ日本だと未だに「お箸の使い方が上手ですね」と言われたりします(笑)別にお箸は日本特有のものではないし、逆に言えば日本人が「フォークとナイフが使えてすごいですね」と言われているようなものですよね。
日本には、そういう根本中の根本にまつわる差別が依然としてあるから、いつまでも外国人は日本では”お客様”なんです。どんなに日本語が上手に話せても、結局はどこまで行っても外国人でしかない。しかも、僕は何だか知らないけど、どこへ行っても「カッコいい」と言われる(笑)オーストラリアでは全然モテなかったのに、急にモテ期が来た!みたいな(笑)「ハーフの力って日本では強いんだな」と思いましたね。オーストラリアではハーフなんて当たり前だから、特別なことだと全く思っていなかったのに、日本に来てから急にハーフが特別なものになったのが、可笑しくてしょうがなかったです。
子どもの頃から英語と日本語のバイリンガルで、大学に入ってから完全なバイリンガルになりました。だから「日本語が上手ですね」とよく言われるのですが、僕にとってはプレッシャーです。「ということは、もし間違った日本語を使ったら軽蔑されるわけ?」と思ってしまいますから。
多人種国家での隠れた差別
ただ、差別を感じたのは日本でだけではありません。オーストラリアにいた時も差別は受けました。その要因は2つあって、1つは「完全な白人オーストラリア人ではないこと」もう一つは「日本人とのハーフだったゆえに、中国系や韓国系などのアジア系の人たちとも仲良くなれなかった」ことですね。だから学校などでも孤立していました。
しかも、高校では日本語のクラスを受けられませんでした。高校の語学のクラスには”Continuers(コンティニュアス)”と”Background(バックグラウンド)”があって、前者はある言語をまったくの外国語・第二言語として学ぶ人を対象とするコース、後者は外国で生まれ育った人が継続して母国語を学ぶためのクラスです。僕はいずれにも当てはまりませんでした。そこで僕は州政府の教育委員会から”Background”のクラスを受講するように言われました。その理由は、僕の母が日本人だから。ただそれだけでした。
しかも”Background”にはヨーロッパ系の言語は含まれておらず、それらは”Contineurs”に分類されていました。例えば僕の友人で、イタリアからオーストラリアに14歳の頃に移住した人がいるのですが、彼女はイタリア語の”Contineurs”クラスを受講できた。州政府の教育委員会も、それについては何も言いませんでした。
これを突き詰めて考えると、”Background”の存在は、アジア系にハンデを与えるためのような気がします。それは、大学受験でアジア系がヨーロッパ系より高得点を出すからです。BackgroundよりもContineursの方が簡単ですから、Backgroundしか選択肢の無いアジア系は、必然的に点数が低くなりますよね。だからあの当時は「とんでもない差別だ!」と思いました。結局は自分にとってBackgroundが難しかったから、日本語クラスは受講しませんでした。
日本の”差別”は異質
多人種国家のオーストラリアでも、多くの場合白人は白人としかつるまないし、アジア系はアジア系としかつるみませんでした。もっと言えば、恋人として付き合う人や結婚する相手も、同じ人種と一緒になる傾向が今まではありました。一方で日本は、人種で人を見ることはなくて「日本語が話せればそれでいいじゃん」みたいに接してくれるような印象があります。僕がバリバリの白人の顔をしていないからかもしれませんが。
オーストラリアは、人種に関する制度的には充実した国だと思います。でも国民がそれを尊重しているかと言えば、全然そうではない。しかも先ほどの”Contineurs”と”Background”のように、制度的にまだまだ不十分なところがあります。
一方の日本は、制度的にもひどいし、ほとんどの日本人は非常に保守的で、差別意識が強いと思います。それは外国人に対してだけでなく、”いじめ”も存在するし、上下関係もメチャクチャ濃いです。それらが差別の温床になっている気がします。僕が外人だから差別を感じているとはもちろん思いますが、外人でなくても差別を受けている日本人はたくさんいます。だからそれらにいちいち傷つくのではなく、どう改善していくかに専念した方が良いと思います。
多文化共生に向けたコンセンサスが無い日本
川崎市役所で国際交流員として働く傍らで、多文化共生の実現に向けて毎年行われる「あーすフェスタかながわ」でのボランティア活動に、過去3度携わってきました。神奈川県は日本国内でも数少ない、外国人が主導で「あーすフェスタ」のようなイベントや会議が行われる自治体ですが、それも県の上層部が変わったら制度も変わるわけですから、今後はどうなるか分かりません。最近で言えば、朝鮮学校への補助金打ち切りの問題も出てきました。つまり現段階では、人々の認識でコロッと方向性が変わるくらいの”多文化共生”でしかないのです。
僕が生まれ育ったオーストラリアは、多文化共生条例に相当するものが国で定められていて、それが各自治体のニーズや状況に応じて変化した上で適用されます。しかし日本では、それぞれの自治体が勝手にやっているだけで、国がきちんと”多文化共生”の定義付けをしていない。そのせいで、国と自治体がミスマッチや意見の食い違いを起こしているケースが多々見受けられます。
少なくとも、国が多文化共生に向かって動いているとは全く思えません。例えばテレビのニュースを見ていても、今年6月に起きた東京・新大久保での右翼団体によるヘイトスピーチのもようは一切放送されませんでした。その一方で、政治家の人種差別的な発言がメディアから流れたりする。そんなことは、オーストラリアでは考えられないどころか、そのような人は最初から政治家になれません。そのような状況ではとても”多文化共生”に思いを馳せることは望めません。
肩書きを外し、ひとつにまとまろう
そんな中で、毎年5月に行われる多文化共生の祭典「あーすフェスタかながわ」は、非常に多くの人を集めています。だからこそ、僕はボランティアとして関わりたいと思ったのです。草の根でありながら、徐々に自治体政府レベル、そして国レベルにまで活動が浸透していくかもしれない。そのような可能性を秘めています。
そして今年の「あーすフェスタ」では、僕がある提案をし、それが通りました。それは、毎年フェスタ内で開いている「外国籍県民フォーラム」という、在日外国人の意見や主張を伝える場に関してですが、僕は外国人だけでなく、外国人を受け入れている日本人の声も聞くべきだと思い、それを実行しました。外国人と日頃から交流のある日本人の方々にも、彼らから見た外国籍の姿について語っていただきました。徳橋さんにも、My Eyes Tokyoのご活動を通じて感じられたことをプレゼンテーションしていただきましたね。
そしてさらに、もし僕が「あーすフェスタ」なり「外国籍県民フォーラム」を任されるチャンスがあるなら、やってみたいことがいくつかあります。1つ目は、参加者の肩書きや所属を全て外して議論や討論をしていただくことですね。なぜなら僕は「あーすフェスタ」に役人として携わっていたわけではないからです。
2つ目は、民族団体ごとに分かれて何かを主張するのではなく、団体同士がまとまって1つの目標に向かってほしいと思っています。その方が、声は大きく、力強くなります。もちろん「あーすフェスタ」はその実現を促すものなので、フェスタを通じてそうなってほしいと思います。もし外国人が、日本人に頼らずに本気で多文化共生の実現を謳うのであれば、自分たちが所属する民族団体の組織を守りつつ、協力し合って目標の実現に向かっていかなければ、まず実現は有り得ないでしょう。
「あーすフェスタ」が開かれる2日間は、参加している民族団体も各学校が、それぞれ異なる背景を持ちながらも共同して事業を企画・運営します。そこがこのイベントの素晴らしさなのですが、残念なのは、その2日間が終わったら、その素晴らしい”共同作業”も終わってしまうことです。あと、日本人が主催する各自治体の国際交流協会さんにも「あーすフェスタ」に加わってほしいですね。
今年の「外国籍県民フォーラム」。ベンジャミンさんは、最後のプレゼンターとして自身の描く「多文化共生社会」像を示した。
2013年5月11日@あーすフェスタ(横浜市栄区)
「和のある社会」
そして3つ目は・・・これは究極ですが「多文化共生の実現は、有り得ない」ということを、まずは僕らが認識しないといけない、ということを伝えたい。何故かと言えば、多文化共生は理想だからです。僕は、お互いがお互いを尊重し合っても理解まではしなくて良いと考えていますし、当然日本はその域にまで達していません。いえ、日本に限らず、世界のあらゆる場所も同じだと思います。
その代わり僕が今の段階で考えているのが「和のある社会」です。それは「誰しもが自分のアイデンティティを守りながら、相手に不快感を与えない。なおかつ問題が生じた時は、すぐに解決できる」社会のことです。多文化共生というよりは「多様な人たちが住んでいる社会」みたいな感じですね。アイデンティティをお互いに支え合うというよりは、地震や災害の時などの緊急時にお互いを支え合うことができる。それが僕の考える「和のある社会」です。
もちろんそれに到達するためには、制度的な差別を排除していかないと、お互いの敵対心が存在したままになります。そのためには草の根レベルでどんどん和を広げていく必要があります。そしてやがて、自分の知っている人たちがたとえ外国人であっても、価値観が自分たちとは多少違っていても、人間として何ら変わりないだろうという思いに至る。「親が大事」「家族を守りたい」「毎日3食食べたい」という根本の欲求はどの人にもあるし、その延長線にあるのが「平和に暮らしたい」という思いじゃないですか。それらの思いを尊重し合うのが、僕の考える「和のある社会」であり、広く言われている「多文化社会」だと思っています。
日本はデッカいチャンスがある国
僕は、日本に来てから「自分は日本人の血の方が濃い」と思うようになりました。価値観とか、笑いのツボとか(笑)思いやりの精神とか、僕の人間性が日本の国民性に近いような気がします。来日前は、自分のことをオーストラリア人だと思っていましたが、来日後に180度変わったような感じです。だから僕にとってはオーストラリアは”祖国”で、日本は”原点”ですね。
僕にとっては、いろいろ課題はあるけれど、現段階では日本の方が居心地が良い。でもそれは個人的な感想であって、一般的な外国人、特に日本語が話せない人にとっては、日本はメチャクチャ住みにくいかもしれません。でも逆に、この国では日本語さえ話せたら、外国人はすごく優遇されると個人的には思っています。
オーストラリアは、日本と経済的な結びつきが強いです。これは逆に言えば、在豪の日系企業には日本の本社から日本人が派遣されるということ。つまり、日本語ができる現地生まれの人の需要はほとんどありません。逆に英語と中国語、英語とタガログ語のバイリンガルの需要は高く、それは中国やフィリピンとオーストラリアの経済的な結びつきが弱く、そのような人がオーストラリア国内に少ないからです。
だからこそ日本は、僕にとってデッカいチャンスがある国なんです。これから僕はロンドンの大学院に留学し、環境政策を学びますが、また日本に戻ってきたいと思っています。そして日本で、環境系ビジネスを興したいですね。
「外国籍県民フォーラム」プレゼンター&スタッフ。看板の向かって右隣がベンジャミンさん。 その反対側、看板の左側にインタビュアーの徳橋。
2013年5月11日@あーすフェスタ(横浜市栄区)
ベンジャミンさんにとって、日本って何ですか?
先ほども言いましたが「原点」です。オーストラリアは、自分が育ててもらった国という意味で「祖国」ですが、一方で日本は、僕にとって「自分のアイデンティティやルーツが一番根強くある国」ですね。
ベンジャミンさん関連リンク
あーすフェスタ2013: http://www.earthplaza.jp/earthfesta/
外国籍県民フォーラム2013: クリック!
*いずれも終了しています
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